東京地方裁判所八王子支部 平成8年(ワ)2506号 判決 2000年6月28日
原告
八木肇(以下「原告八木」という。)
同
田倉孝二(以下「原告田倉」という。)
同
高橋宗秀(以下「原告高橋」という。)
同
中村靜夫(以下「原告靜夫」という。)
同
中村雅一(以下「原告雅一」という。)
亡大房芳明訴訟承継人原告
大房陽子
同
平沼千奈美
右原告七名訴訟代理人弁護士
徳住堅治
同
大塚達生
同
山内一浩
同
水野英樹
同
渡邊淳夫
同
土井稔
被告
八王子信用金庫
右代表者代表理事
久保康博
右訴訟代理人弁護士
中山慈夫
同
男澤才樹
同
中島英樹
主文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第一事案の概要
本件は,被告の職員である原告ら(一部は,退職済みであり,また死亡者の訴訟承継人である。)が,被告は就業規則及び給与規程を原告らに不利益な内容に変更したが,この変更は原告らの同意を得ないまま一方的になされたものであり,かつ必要性も合理性も認められないから,同意をしていない原告らに対しては効力を有しないと主張して,原告らが,被告との労働契約上右変更以前の地位にあることの確認と,変更前の給与規程等により支払われるべきであった給与等の額と右変更後の給与規程等によって支払われた給与等の額との差額の金員の支払いを求めた事案である。
第二請求
一 原告八木,原告高橋,原告靜夫及び原告雅一と被告との間で,右原告らが,55歳時年度以降の給与について,平成5年4月1日から施行すると付則で規定されている被告の就業規則43条に基づく給与規程第1章第3条(3)に別紙1のとおり定められた労働契約上の地位を有することを確認する。
二 被告は,原告八木に対し,502万7920円及び右金員のうち160万3910円に対する平成10年10月21日から,その余に対する平成12年2月19日から各支払済みに至るまでそれぞれ年5分の割合による金員を支払え。
三 被告は,原告田倉に対し,479万8336円及び右金員のうち61万3920円に対する平成8年11月29日から,279万3623円に対する平成10年10月21日から,その余に対する平成12年2月19日から各支払済みに至るまでそれぞれ年5分の割合による金員を支払え。
四 被告は,原告高橋に対し,458万0539円及び右金員のうち149万0190円に対する平成10年10月21日から,その余に対する平成12年2月19日から各支払済みに至るまでそれぞれ年5分の割合による金員を支払え。
五 被告は,原告靜夫に対し,561万8252円及び右金員のうち180万8040円に対する平成10年10月21日から,その余に対する平成12年2月19日から各支払済みに至るまでそれぞれ年5分の割合による金員を支払え。
六 被告は,原告大房陽子に対し,57万8370円及び右金員のうち26万6940円に対する平成8年11月29日から,その余に対する平成9年1月21日から各支払済に至るまでそれぞれ年5分の割合による金員を支払え。
七 被告は,原告平沼千奈美に対し,57万8370円及び右金員のうち26万6940円に対する平成8年11月29日から,その余に対する平成9年1月21日から各支払済に至るまでそれぞれ年5分の割合による金員を支払え。
第三当事者の主張(略)
第四当裁判所の,被告の本案前の主張に対する判断
一 被告は,前記のとおり,原告らによる旧制度に基づいた労働契約上の地位確認請求は,端的に旧制度に基づいた賃金と新制度に基づいた賃金との差額の支払いを給付訴訟によって求めればその目的を達するものであるところ,現実に原告らは右内容の給付訴訟を提起しているし,また,将来の右差額についても給付訴訟によることが可能であるから,右地位確認請求は確認の利益を欠くと主張する。
二 しかし,一定の賃金の支払いを受けるべき労働契約上の地位を有することを訴訟によって確定することは,継続的契約関係である労働契約における紛争を抜本的に解決する方法として,極めて有効であり適切でもある。そうすると,単に賃金差額を求める給付訴訟が提起されていることや将来発生すべき賃金差額について将来の給付訴訟を提起することが可能であるとの理由だけで,右確認訴訟の訴えの利益を否定することはできないというべきであり,原告らによる本件確認請求は適法なものというべきである。
右のとおり,被告の本案前の主張は理由がない。
第五当裁判所の本案についての判断
一 本案における争点
本件においては請求の原因については当事者間にほぼ争いがなく,争点となるのは,本件就業規則等変更が,これに同意をしていない原告らに対して効力を有するか否かのみである。
二 (証拠・人証略)及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められる。
1 新制度導入に至る経緯等
(一) 旧制度及びそれ以前における高齢職員に対する処遇等
(1) 旧制度以前における処遇(<証拠略>)
被告においては,昭和57年10月まで55歳定年制を採用していたが,同年11月に定年を60歳まで延長した。そして,これに伴い,55歳時年度以降の職員に対する処遇を,55歳時年度未満の職員に対する処遇と切り離し,2本立ての処遇制度を採用した。すなわち,55歳時年度以降の職員は,原則として役員職から離脱し,新たに設けられた特任職制度の特任職職員として,検査,推進,審査,相談及び調査等の担当職を行うものとした。そして,その給与等については,定年まで,本給は54歳時年度の本給を基準として一律70パーセントに抑え,賞与の支給率も職員平均支給率の70パーセントに抑えることとした(以下「旧々制度」という)。
なお,平成2年4月1日からは,特任職職員の賞与については,55歳時年度未満の職員と同様の支給率に戻した。
(2) 旧制度における処遇(<証拠略>)
被告は,平成4年3月31日,高齢化社会の進展に伴い,65歳までの継続雇用が社会的な要請となっていたことを受け,定年を60歳から62歳に延長した。被告は,これに伴い,旧々制度の特任職制度を廃止するとともに,55歳時年度以降の職員の給与等についても,54歳時年度の本給の一律70パーセントとする制度を廃止して,55歳時年度以降62歳の定年まで,毎年,54歳時年度の本給を基準に,その6パーセントずつを逓減するという制度を採用した。
(二) 新制度策定の経緯等
(1) 全国信用金庫連合会による経営コンサルティング(<証拠略>)
被告は,平成4年11月末頃,金融自由化の進展を背景に,顕在化している金融環境の構造的変化と今後予測される変化に対処すべく,全国信用金庫連合会(以下「全信連」という。)の経営コンサルティングを受診した。全信連の経営コンサルティングは約3か月間程度行われ,平成5年3月2日,その答申が出された。
全信連コンサルティングの答申では,被告の現状における課題が数点挙げられた上で,その課題解決のための施策が提案されたが,右施策の中に「総合人材戦略プランの策定」が掲げられ,その一つとして,「高齢者の活用」が挙げられた。
被告は,この答申を受け,同年4月20日,右答申において提案された課題解決のための施策実現を図り被告の機能改革を推進すべく,経営改革委員会及びその下部組織である経営改革作業部会を設置した。経営改革作業部会は,右答申において提案された施策ごとに部会を設け,その一つとして「総合人材戦略プラン策定部会」が設置され,「高齢者の活用」等の問題を検討することになった。
(2) 経営改革委員会での検討等(<証拠略>)
経営改革委員会は,平成5年12月6日までに5回開催され,全信連コンサルティングの答申によって指摘された課題及びその解決のための施策等について様々な検討が行われた。
その中で「高齢者の活用」については,被告では職員の加齢化が顕著に進行し,中高年齢層(40歳以上)の割合が男子職員を中心に著しく増加していること,それに伴い,人件費に占める中高年齢層の割合が,昭和59年に37.44パーセントであったのが,平成4年には47.76パーセントとなって大幅に増加していること,10年後の平成14年度に被告の預金量が5000億円に到達することを前提とし,預金・貸金の伸び率をいずれも年率8パーセントの伸長,ベースアップを年率5パーセントという条件を設定してシミュレーションすると,人件費に占める中高年齢層の割合は50.44パーセントにも到達することなどの問題点が指摘され,このような職員の中高年齢化への対応が急務であるとされた。
被告は,このような経営改革委員会の提言を受け,平成6年1月1日,各営業店に「支店長席」という職位を設け,それまで,55歳時年度到達により役職から離脱し専任職となった職員については全員本部に配属するとしていたのを変更し,各営業店へも支店長席として配属することにした。支店長席は,支店長直属とされ,支店長の補佐的職務を担当し,その職務の範囲は,指導的,管理的なものなど職務基準書に基づいて決定されるが,基本的には権限は付与されないものとされた。
(三) 新制度導入の経緯等
(1) 新制度導入についての職員への説明等(<証拠・人証略>)
被告は,平成7年2月頃,新制度を導入すべく,職員や八信労への説明会を始めた。被告は,説明に際して,全職員に対し「人事制度の見直しについて」と題する書面(<証拠略>)を配付した。その書面において,被告は,新制度の内容についてるる説明しているが,55歳時年度以降の職員の給与体系については,職員の加齢化が年々進展しており,それに伴って人件費に占める中高年齢層の割合が平成14年には50.44パーセントにまで増加すると見込まれること,平成14年には人件費率が1.766パーセントにまで上昇し,平成5年度の人件費率1.450パーセント並みにするためには,今後17パーセント強の人件費節減が必要なことを述べた上で,今後の総人件費を考え,全職員が同じ立場で同じ努力をしていくためには,55歳時年度以降の職員の給与を更に減額せざるを得ないとし,その後新制度によって導入された55歳時年度以降の職員の給与体系((ア)(a)コースから(エ)コースまで)を「選択定年制」として紹介し,その導入を告知した。そして,被告は,新制度を平成7年度から導入したい旨提案した。
このような被告の説明・提案に対して,職員や八信労からは様々な意見や要求が出されたが,その中で,平成7年度からの導入というのは余りにも性急すぎるので,導入は延期すべきであるとの意見が出されたため,被告は新制度を平成7年度に導入することを断念し,導入を1年先送りすることにした。
(2) 新制度導入へ向けた再説明等(<証拠・人証略>)
被告は,新制度の平成8年度導入に向け,平成7年12月ころから平成8年2月頃までの間に,再び職員や八信労に対する新制度についての説明会を次のとおり開催した。
<1> 部店長を対象にした説明会
平成7年12月14日午前8時40分から午前10時
平成8年2月6日午後5時30分から午後7時
<2> 副部店長及び所長を対象にした説明会
平成7年12月14日午後5時から午後6時20分
平成8年2月7日午後5時30分から午後7時
<3> その他の管理職(55歳以上の者を除く。)を対象にした説明会
平成7年12月15日午前8時40分から午前10時
平成8年2月8日午前8時40分から午前10時10分
<4> 55歳以上の管理職及び職員を対象にした説明会
平成7年12月15日午後5時から午後6時20分
平成8年2月8日午後5時30分から午後7時
<5> 7級職以下の職員(八信労組合員等)
平成8年1月8日から12日まで
平成8年2月9日から23日まで
被告は,右説明に当たって,全職員に対し「1 サバイバルを勝ち取るために」で始まる書面(<証拠略>)及び「新しい人事考課制度について」と題する書面(<証拠略>)を配付した。「1 サバイバルを勝ち取るために」と題する書面には,被告が置かれている金融環境や被告の経営状態(自己資本比率の低さ,人件費率の高さ)などが説明された上,給与体系を中心に新制度の内容が説明されており,「新しい人事考課制度について」と題する書面には,新制度における人事考課制度を中心に説明がなされている。
(3) 被告と八信労との交渉等(<証拠・人証略>)
被告は,平成8年3月18日から,八信労と新制度導入について協議を開始した。八信労は,同年3月中旬頃,被告との協議に備え,組合員に対して新制度導入についてアンケート調査を実施したところ,「世間一般の情勢から考えてやむを得ない。」などの賛成意見もあったが,他方で,「人件費に手を付ける前に物件費を再度見直すべきだ。」,「高齢者への待遇が,社会の流れに逆行している。」などの反対意見も多かった。
被告と八信労は,同年5月1日に公開座談会を開催し,八信労は,公開座談会で,右アンケート結果に基づいて様々な質問を行った。
その後も,被告と八信労は,同年5月15日,同月21日,同年6月4日,同月6日,同月17日,同月20日,同月21日,同月24日及び同月26日に協議を行った。その間,八信労は被告に対し,同年6月24日に,「人事制度改定に対する要求書」と題する書面(<証拠略>)で新制度に対する様々な意見を述べ,その中で,55歳時年度以降の職員に対する給与体系について「現行よりカット率が高くなることについて,何らかの代替措置を論ずること」を求めたが,被告は,同月26日付けの書面(<証拠略>)で,この八信労の要求に対し,「現状55歳以上の職員は非組合員であり,本件については金庫の対応とする。」旨回答した。
八信労は,以上の被告との協議等に基づき,同年7月1日に臨時総会を開催し,新制度導入に八信労として同意するか否かについて投票を行った結果,投票総数378票中,賛成338票,反対39票,白票1票で,新制度導入に同意することを可決した。八信労は,この投票結果に基づき,被告に対して,同月8日付け「人事制度改定に対する組合よりの意見書」と題する書面(<証拠略>)により,新制度導人に同意する旨の意見を述べた。八信労は,右意見を表明するに際して,「本改定案(新制度案)の中における『組合員』の認識について,組合側と金庫側との間に考え方の相違があります。この点について,組合側はあくまでも『7級職以下の者は組合員である』との認識に立った上で,本改定に同意した。」と付言した。
なお,八信労は,被告の全職員506名中424名が加入する多数労働組合であり,全職員に占める組合員の割合は約84パーセントである。そして,八信労は,7級職以下の職員によって組織されているところ,加入資格について年齢制限はなく,新制度導人に同意した平成8年7月1日時点において,55歳以上の組合員は1名(61歳),50歳以上55歳未満の組合員は8名,40歳以上50歳未満の組合員は14名存在していた。
(4) 本件就業規則等変更による新制度導入等(<証拠略>)
被告は,平成8年7月8日,本件就業規則等変更を実施して(改定日は平成8年4月1日,ただし,本件就業規則等の変更により直接給与に影響の生じる55歳時年度以降の職員については,新制度の適用は同年7月1日から),新制度を導入した。そして,被告は,同月17日に,本件就業規則等変更を八王子労働基準監督署に届け出た。
(5) 新制度の概要
新制度の概要は,請求の原因3(二)のとおりであり,これは当事者間に争いがない。
(6) 新制度導入に対する原告らの対応等(<証拠・人証略>)
原告らを含む12名の職員は,被告から新制度導入についての説明を受けた後である平成8年3月8日,被告に対して,新制度の全面撤回を求める申入れを行い,同日付けの申入書(<証拠略>)を被告に提出したが,すぐに返却されてしまったので,同月11日,右申入書と同じ内容の文書を内容証明郵便で被告宛に送付した。その後,原告らを代表して亡大房ほか1名が,同月18日に被告と協議を行い,その後も,原告らは,代表として原告靜夫及び原告雅一を選出して,同年4月3日,同月15日の2度にわたって,被告と協議を行った。その席上,原告靜夫及び原告雅一は,被告に対して新制度の全面撤回を要求したが,被告はこれを拒絶した。その後,原告らは,新制度導人が決定されるまでの間,被告に対して何らの申入れも行わなかった。
原告らの代表2名は,新制度が導入された後である同年8月19日,被告に対して口頭で話合いを申し入れた。その際,被告は,右原告らの代表に対して,話合いの目的及びそのメンバーを文書で提出するよう要請した。原告らは,23日,「はちしんユニオン」名義の書面(執行委員長は原告八木と記載されてある。<証拠略>)で被告に対して新制度導入撤回要求についての話合いを申し入れ,出席者として原告ら6名を含む合計8名の名前を掲げた。
しかし,その後,原告らと被告との間で具体的な話合いは行われず,原告らは,同年11月18日,本件訴訟を提起した。
2 新制度における55歳時年度以降職員の給与面の変更等
(一) 旧制度以前における55歳時年度以降職員の給与等
旧々制度では,前記のとおり,被告職員の定年は60歳とされ,かつ,55歳時年度以降の職員の本給は,一律に54歳時年度の本給の70パーセントとされていた。
したがって,54歳時年度の本給を100とすると,55歳時年度以降定年までに被告職員が得られる本給は,1年平均70であり,総額は350となる(70×5年間)。
(二) 旧制度における55歳時年度以降職員の本給等
被告が平成4年4月1日に施行した旧制度では,前記のとおり,被告職員の定年が60歳から62歳に引き上げられるとともに,55歳時年度以降の職員の本給については,54歳時年度の本給を基準として,毎年6パーセントずつ逓減するということにされた。
したがって,54歳時年度の本給を100とすると,55歳時年度以降定年までに被告職員が得られる本給は,1年平均76であり,総額は532となる(94+88+82+76+70+64+58=532)。
(三) 新制度における55歳時年度以降職員の本給等
(1) (ア)(a)コース(60歳時年度末退職)
このコースは,55歳時年度以降の職員の本給について,退職までに毎年6パーセントずつ逓減されるというものであり,54歳時年度の本給を100とすると,55歳時年度以降退職までに被告職員が得られる本給は,1年平均82であり,総額は410となる(94+88+82+76+70=410)。
(2) (ア)(b)コース(60歳時年度末退職)
このコースは,55歳時年度以降の職員の本給について,56歳時年度までは毎年6パーセントずつの逓減,57歳時年度は54歳時年度本給の63パーセントに,58歳時年度は60パーセントに,59歳時年度は57パーセントに逓減される。
したがって,54歳時年度の本給を100とすると,55歳時年度以降退職までに被告職員が得られる本給は,1年平均72.4となり,総額は362となる(94+88+63+60+57=362)。
ただし,このコースを選択した場合には,退職時に(ア)(a)コースとの差額を退職一時金として支給することになるので,55歳時年度以降退職までに取得できる本給の額は,結局(ア)(a)と同額になる。
(3) (ア)(c)コース(60歳時年度末退職)
このコースは,55歳時年度以降職員の本給について,57歳時年度までは毎年6パーセントの逓減,58歳時年度は54歳時年度本給の60パーセントに,59歳時年度は57パーセントに逓減される。
したがって,54歳時年度の本給を100とすると,55歳時年度以降退職までに被告職員が得られる本給は,1年平均76.2となり,総額は381となる(94+88+82+60+57=381)。
ただし,このコースを選択した場合には,退職時に(ア)(a)コースとの差額を退職一時金として支給することになるので,55歳時年度以降退職までに取得できる本給の額は,結局(ア)(a)と同額になる。
(4) (ア)(d)コース(60歳時年度末退職)
このコースは,55歳時年度以降職員の本給について,58歳時年度までは毎年6パーセントずつの逓減となり,59歳時年度からは54歳時年度本給の57パーセントに逓減される。
したがって,54歳時年度の本給を100とすると,55歳時年度以降退職までに被告職員が得られる本給は,1年平均79.4となり,総額は397となる(94+88+82+76+57=397)。
ただし,このコースを選択した場合には,退職時に(ア)(a)コースとの差額を退職一時金として支給することになるので,55歳時年度以降退職までに取得できる本給の額は,結局(ア)(a)と同額になる。
(5) (イ)コース(61歳時年度末退職のコース)
このコースは,55歳時年度以降職員の本給について,56歳時年度までは毎年6パーセントずつの逓減となり,57歳時年度は54歳時年度本給の63パーセントに,58歳時年度は60パーセントに,59歳時年度は57パーセントに,60歳時年度は54パーセントに逓減される。
したがって,54歳時年度の本給を100とすると,55歳時年度以降退職までに被告職員が得られる本給は,1年平均69.3(小数点第2位以下切捨て)となり,総額は416となる(94+88+63+60+57+54=416)。
(6) (ウ)(a)コース(62歳時年度末退職のコース)
このコースは,56歳時年度までは毎年6パーセントずつの逓減となり,57歳時年度から61歳時年度までは一律54歳時年度本給の50パーセントに逓減される。
したがって,54歳時年度の本給を100とすると,55歳時年度以降退職までに被告職員が得られる本給は,1年平均61.7(小数点第2位以下切捨て)となり,総額は432となる(94+88+50+50+50+50+50=432)。
(7) (ウ)(b)コース(62歳時年度末退職のコース)
このコースは,55歳時年度は54歳時年度本給の69パーセントに,56歳時年度は66パーセントに,57歳時年度は63パーセントに,58歳時年度は60パーセントに,59歳時年度は57パーセントに,60歳時年度は54パーセントに,61歳時年度は50パーセントにそれぞれ逓減される。
したがって,54歳時年度の本給を100とすると,55歳時年度以降退職までに被告職員が得られる本給は,1年平均59.8(小数点第2位以下切捨て)となり,総額は419となる(69+66+63+60+57+54+50=419)。
(8) (エ)コース(62歳時年度末退職のコース)
このコースは,平成8年3月31日現在,既に55歳時年度以降の職員を対象にしているので,55歳時年度の本給については旧制度のままの,54歳時年度本給の6パーセント減となり,56歳時年度は54歳時年度本給の66パーセントに,57歳時年度は63パーセントに,58歳時年度は60パーセントに,59歳時年度は57パーセントに,60歳時年度は54パーセントに,61歳時年度は50パーセントにそれぞれ逓減される。
したがって,平成8年3月31日現在において既に55歳時年度の職員については,54歳時年度の本給を100とすると,55歳時年度以降退職までに右職員が得られる本給は,1年平均63.4(小数点第2位以下切捨て)となり,総額は444となる(94+66+63+60+57+54+50=444)。
(四) 以上の各制度の比較
以上の旧々制度,旧制度及び新制度における55歳時年度以降職員の本給を比較すると,次のとおりとなる。
(1) 1年平均の本給額
1年平均の本給額を比較すると,旧々制度は70(54歳時年度本給を100とした場合。以下同じ。),旧制度は76,新制度は59.8ないし82となる。
(2) 55歳時年度以降退職までの本給総支給額
55歳時年度以降退職までの本給総支給額を比較すると,旧々制度は350,旧制度は532,新制度は410ないし444となる。
3 原告らの新制度導入による本給等の減少状況等
(一) 原告八木について
(1) 原告八木は,昭和15年8月29日生まれであり,平成8年3月31日現在,54歳時年度であった。そして,原告八木は,新制度におけるコース選択をしなかったため,新制度の(ウ)(a)コースが適用された。
(2) その結果,原告八木の本給については,平成10年4月20日に支給された57歳時年度4月分から差異が生じ,平成12年2月20日までに支給された本給及び賞与の合計金額でみると,旧制度であれば合計1398万1241円の支給を受けられるところ,新制度では合計895万3321円の支給しか受けられなかった。
原告八木が現実に支給を受けた右金額は,旧制度であれば支給されるはずだった金額の64.03パーセントに当たる。
(3) なお,(ウ)(a)コースに基づいた場合,55歳時年度以降退職までの間の原告八木の平均年収は,644万円となる(<証拠略>)。
(二) 原告田倉について
(1) 原告田倉は,昭和13年5月12日生まれであり,平成8年3月31日現在,56歳時年度だった。したがって,原告田倉は新制度の(エ)コースが適用された。
(2) その結果,原告田倉の本給については,平成8年7月に支給された57歳時年度7月分から差異が生じ,平成12年2月20日までに支給された本給及び賞与の合計金額でみると,旧制度であれば合計2268万1642円の支給を受けられるところ,新制度では合計1835万3149円の支給しか受けられなかった。
原告田倉が現実に支給を受けた右金額は,旧制度であれば支給されるはずだった金額の80.91パーセントに当たる。
(3) なお,(エ)コースに基づいた場合,55歳時年度以降退職までの間の原告田倉の平均年収は,705万1000円となる(<証拠略>)。
(三) 原告高橋について
(1) 原告高橋は,昭和16年1月28日生まれであり,平成8年3月31日現在,54歳時年度だった。そして,原告高橋は,新制度に基づくコース選択をしなかったため,(ウ)(a)コースが適用された。
(2) その結果,原告高橋の本給については,平成10年4月20日に支給された57歳時年度4月分から差異が生じ,平成12年2月20日までに支給された本給及び賞与の合計金額でみると,旧制度であれば合計1266万6607円の支給を受けられるところ,新制度では合計808万6068円の支給しか受けられなかった。
原告高橋が現実に支給を受けた右金額は,旧制度であれば支給されるはずだった金額の63.83パーセントに当たる。
(3) なお,(ウ)(a)コースに基づいた場合,55歳時年度以降退職までの間の原告高橋の平均年収は,613万2000円となる(<証拠略>)。
(四) 原告靜夫について
(1) 原告靜夫は,昭和15年8月12日生まれであり,平成8年3月31日現在,54歳時年度だった。そして,原告靜夫は,新制度に基づくコース選択をしなかったため,(ウ)(a)コースが適用された。
(2) その結果,原告靜夫の本給については,平成10年4月20日に支給された57歳時年度4月分から差異が生じ,平成12年2月20日までに支給された本給及び賞与の合計金額でみると,旧制度であれば1550万6690円の支給を受けられるところ,新制度では合計988万8438円の支給しか受けられなかった。
原告靜夫が現実に支給を受けた右金額は,旧制度であれば支給されるはずだった金額の63.76パーセントに当たる。
(3) なお,(ウ)(a)コースに基づいた場合,55歳時年度以降退職までの間の原告靜夫の平均年収は,738万4000円となる(<証拠略>)。
(五) 原告雅一について
(1) 原告雅一は,昭和17年5月25日生まれであり,平成8年3月31日現在,52歳時年度だった。そして,原告雅一は,新制度に基づくコース選択をしなかったため,(ウ)(a)コースが適用された。
(2) その結果,原告雅一の本給については,平成12年4月20日に支給された57歳時年度4月分から差異が生じることになる。
(3) なお,(ウ)(a)コースに基づいた場合,55歳時年度以降退職までの間の原告雅一の平均年収は,656万6000円となる(<証拠略>)。
(六) 亡大房について
(1) 亡大房は,昭和12年5月6日生まれであり,平成8年3月31日現在,57歳時年度だった。したがって,亡大房には新制度の(エ)コースが適用された。
(2) その結果,亡大房の本給については,平成8年7月に支給された58歳時年度7月分から差異が生じ,平成9年1月20日までに支給された本給及び賞与の合計金額でみると,旧制度であれば562万1520円の支給を受けられるところ,新制度では合計446万4780円の支給しか受けられなかった。
亡大房が現実に支給を受けた右金額は,旧制度であれば支給されるはずだった金額の79.42パーセントに当たる。
4 新制度導入による55歳時年度未満の職員の本給減少状況(<証拠略>)
新制度導入によって本給が減額するのは,55歳時年度以降の職員のみではなく,55歳時年度未満の職員の本給も,年齢給が廃止され職能給に一本化され職能給がベースダウンされたために減額しており,平均すると4.31パーセントの減額となっている。これを職能給の級ごとにみると,次のとおりとなる。
(一) 1級職 0.57パーセント減(月額800円減)
(二) 2級職 0.52パーセント減(月額800円減)
(三) 3級職 1.29パーセント減(月額2400円減)
(四) 4級職 2.72パーセント減(月額5700円減)
(五) 5級職 3.81パーセント減(月額9240円減)
(六) 6級職 6.46パーセント減(月額1万8840円減)
(七) 7級職 7.00パーセント減(月額2万4365円減)
5 新制度導入の必要性,合理性について
(一) 被告の経営状況等<略>
(二) 被告における中高年齢職員の割合等<略>
(三) 55歳時到達時以降の原告らの職務内容等<略>
(四) 他の信用金庫との比較等(<証拠略>)<略>
(五) 金融機関等における平均賃金等(<証拠略>)<略>
(六) 高齢者の雇用についての社会情勢等(<証拠略>等)<略>
三 以上の認定事実に基づいて検討する。
1 新たな就業規則の作成又は変更によって労働者の既得の権利を奪い,労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは,原則として許されないが,労働条件の集合的処理,特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって,当該規則条項が合理的なものである限り,個々の労働者において,これに同意しないことを理由として,その適用を拒むことは許されない。そして,右にいう当該規則条項が合理的なものであるとは,当該就業規則の作成又は変更が,その必要性及び内容の両面からみて,それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても,なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認することができるだけの合理性を有するものであることをいい,特に,賃金,退職金など労働者にとって重要な権利,労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については,当該条項が,そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において,その効力を生ずるものというべきである。右の合理性の有無は,具体的には,就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度,使用者側の変更の必要性の内容・程度,変更後の就業規則の内容自体の相当性,代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況,労働組合等との交渉の経緯,他の労働組合又は従業員の対応,同種事項に関する我が国社会における一般的状況等を総合考慮して判断すべきである。
2 これを本件についてみるに,旧制度と新制度を比較すると,55歳時年度以降の職員の給与等は,1年平均の本給額では最大で約21.3パーセントの減少となり(旧制度の計数76,新制度の計数59.8のとき),55歳時年度以降退職までに支給される本給の総額では最大で約23パーセントの減少となる(旧制度の計数532,新制度の計数410のとき)から,本件就業規則等変更は,賃金という労働者にとって重要な労働条件を労働者に不利益に変更するものであり,したがって,本件就業規則等変更は,これを労働者に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合に限り,それに同意していない労働者に対しても,その効力を生じるものというべきである。
3 そこで,以下,右変更の合理性について,前記認定事実に照らして検討する。
(一) 本件就業規則等変更によって生じる不利益の程度
旧制度において,55歳時年度以降の職員は,その54歳時年度における本給を100とすると,62歳の定年退職時までに1年平均で76,総支給額では532の本給を取得することができていたところ,本件就業規則等変更によって導入された新制度においては,1年平均の本給は59.8ないし82となり(旧制度と比較して高額になる場合もあるが,これは60歳時年度退職を選択した場合であって,後記のとおり,退職時までの総支給額を比較すると,この場合でもかなりの減額となる。),退職時までの総支給額では410ないし444の本給しか取得できなくなる。また,原告らに生じた具体的な給与等の減少額についてみても,平成12年2月20日までに約432万円ないし約551万円の減額が生じている(亡大房は平成9年1月20日までで約115万円の減額となっている。)。この減額幅は,労働者にとってかなりの不利益とみざるを得ず,とりわけ,55歳時年度を間近に控え,旧制度を前提にして,55歳時年度以降も54歳時年度の本給から毎年6パーセントずつ逓減された本給を62歳の定年退職時まで取得し続けることができると考えて生活設計を立てていた職員(原告らを含む。)にとっては相当な不利益であることは否定し得ない。
(二) 本件就業規則等変更の必要性
(1) しかしながら,被告においては,平成8年当時,貸出金利息収入の減少や不良債権償却,預金保険制度に基づく預金保険料の大幅な増加等による経費の増大などが主な原因となって,経常利益,当期利益ともにかなりの割合で減少している状況にあった事情が考慮されなければならない。すなわち,被告においては不良債権償却のための有価証券売却益や諸償却準備積立金取崩しによる特別利益の計上を除外した実質的な経常利益,当期利益をみると,経常利益では平成4年度と平成8年度を比較すると約10分の1程度にまで減少し,当期利益に至っては平成8年度にはマイナスにまで落ち込んでいた。このように,被告の経営状態は決して良好なものとはいい難く,被告としては,償却すべき不良債権を早期に償却した上で,貸出金利息収入を主とする収入を増加させ,他方で節減できる経費は節減するなどして,早期に経営を立て直す必要に迫られていた。
また,いわゆる金融関連三法の制定等により,金融機関に対して自己資本比率を一定程度以上(現在は4パーセント以上)に確保することが要請されている状況において,被告の自己資本比率は,平成4年度以降低水準で推移し,平成8年度には5パーセントを切って4.81パーセントに落ち込み,信用金庫の全国・都内平均と比較しても極めて低い水準にあって,平成8年度には都内信用金庫49金庫中37位という低さであった。したがって,被告としては,右経営の立て直しとともに,自己資本比率を最低限でも現状維持の状態にし,可能であれば上昇させる必要があった。
そして,被告が右経営の立て直し及び自己資本比率の維持・上昇を図るためには,全国や都内信用金庫の平均と比較して高水準にある物件費や人件費といった経費を削減せざるを得ない状況にあった。
(2) さらに,我が国社会における高齢化の進展に伴い,被告においても中高年齢職員(40歳以上)の増加が見込まれ,55歳以上の高齢職員については,平成4年度から平成21年度までの18年間に17(ママ)倍以上にも増加するものと予測された。そして,このような中高年齢職員の増加に伴い,中高年齢職員に対する給与等の人件費が被告の人件費総額に占める割合も増加しており,平成8年度には,男子職員で54パーセントにまで上昇し,その後も確実に増加していくことが見込まれた。このような中高年齢職員層の増加及びこれに伴う中高年齢職員に対する人件費の増加・偏在化は,企業発展と活力の中核を担う若手・中堅職員に対する処遇とのバランスを欠き,その志気低下にもつながり,人事の停滞,企業の活力低下という状況を招きかねないものであった。現に,旧制度下においては,55歳時年度以降の職員である支店長席の年収が,被告の組織規程上その直属の上司に当たりかつ被告の経営上重要な役割を担っている支店長の年収よりも多額になる例も存在していた。したがって,被告としては,このような高齢職員の増加に伴う問題を解決する必要があった。
他方で,我が国社会の高齢化の進展や厚生年金支給開始年齢の引き上げなどを背景にして,高齢者の雇用確保が社会的な要請となっていたため,被告としては,右問題を解決するに当たって,定年を引き下げるなどして高齢職員の人数を削減するという方法を採用することは極めて困難であった。
そのため,被告としては,右のような高齢職員の増加に伴う問題を解決するには,その雇用確保を前提として,高齢職員の人件費削減という方法を採らざるを得ない状況にあった。
(3) 以上のような点に微(ママ)すれば,被告職員の人件費(とりわけ高齢職員の人件費)を削減すべく,本件就業規則等変更によって新制度を導入する必要性は高度なものであったということができる。
(三) 新制度の内容自体の相当性等
(1) 新制度に基づく原告らの55歳時年度から退職までの平均年収は,旧制度に比して減額されているとはいえ,いずれも600万円を超えるものであって,この賃金水準は,他の金融機関における賃金水準と比較しても特に遜色のないものである。また,賃金の本質が労務提供の対価であることにかんがみると,原告らの右賃金水準は,原告ら55歳時年度以降の職員が従事している職務の内容に照らして不相当に低いものとまではいえない。
また,新制度に基づく55歳時年度以降の職員の給与水準は,旧制度と比較すると確かにかなり逓減されているが,旧々制度と比較すれば,なお高い水準にあるということができるのであるから,新制度が55歳時年度以降の職員に対してあまりにも過酷な内容になっているとまではいい難い。
(2) 全国の信用金庫をみると,過半数の信用金庫で,新制度と同様に高齢者に対する処遇についてその給与を逓減するという制度を採用しているところ,その逓減率についても,新制度と同じ程度のところが3割以上存在している。さらに,高齢者の雇用確保に対する社会的な要請から,信用金庫のみならず,様々な企業で高齢者の雇用を確保する代わりにその給与を逓減するという制度を採用しており,その逓減割合は,企業によって様々であるが,中には平均年収がそれまでの半分程度にまで減少する企業も存在している。他方で,全国の信用金庫の定年年齢をみると,被告と同様に62歳を定年としている金庫は417金庫中3金庫しか存在せず(約0.7パーセント),63歳以上の信用金庫を含めても,5金庫(全体の約1.2ハ(ママ)ーセント)に過ぎず,ほとんどの信用金庫が60歳定年制を採用している。
このように,新制度の内容は,他の信用金庫や企業において採用されている高齢者処遇制度と比較すると,給与面だけでみても,特に高齢者に不利益に設定されているとまではいい難く,雇用確保という観点からはむしろ有利に設定されているとすらいうことができるのであって,高齢化を背景にした高齢者の雇用確保の要請とそれによる人件費増大を抑制する必要性との調和という見地から採用された高齢者処遇制度としては,やむを得ないものとみざるを得ない。
(3) 確かに,新制度においては,55歳時年度以降の職員に対して,給与等逓減に対する直接的な代償措置は設けられていない。しかし,新制度では家族手当Bが新設され,満15歳以上満22歳までの扶養子女がいる職員に対して月額1万円が支給されることになっているところ,これは55歳時年度以降の職員に対しても適用があるから,このような扶養子女を有する55歳時年度以降の職員にとっては,給与等の逓減による不利益を緩和する措置であると評価することができる。
また,新制度においては,55歳時年度以降の職員に対する給与体系として8つのコースが設けられており,各職員はその8つのコースの中から,自分の生活設計等を考慮して,最も望ましいコースを選択することができ,また,退職金の額と本給の額とが連動しておらず,かつ退職金規程に変更が加えられていないことから,55歳時年度以降の職員に対する退職金の額は,旧制度の場合と同様の水準になっていることなどは,給与等逓減に対する直接的な代償措置とはいえないけれども,新制度の内容の相当性を考慮する上で,相当性を肯定する方向に働く重要な事情であるといえる。
(4) さらに,本件就業規則等変更については,被告の全職員の約84パーセントが加入する労働組合である八信労が同意をしているところ,その同意は投票総数の約9割(全組合員の約8割に当たる人数である。)の賛成によってなされたものである。しかも,その時点において,八信労には,55歳以上の組合員が1名,50歳以上55歳未満の組合員は8名,40歳以上50歳未満の組合員も14名所属していたものである。そうすると,本件就業規則等変更によって導入された新制度の内容は,労使間で十分に利益調整がされた結果として合理的なものと評価することができる。
なお,この点について,原告らは,八信労が被告に対して提出した「人事制度改定に対する組合よりの意見書」と題する書面(<証拠略>)において,「本改定案(新制度案)の中における『組合員』の認識について,組合側と金庫側との間に考え方の相違があります。この点について,組合側はあくまでも『7級職以下の者は組合員である』との認識に立った上で,本改定に同意した」との記載があることを根拠として,八信労は55歳時年度以降の職員に関する部分を除いて新制度導入に同意したに過ぎない旨主張するが,その当時八信労の組合員には55歳以上の職員が1名おり,50歳以上の職員も数名いたこと,八信労の書記局が作成した「組合よりお知らせ」と題する書面(<証拠略>)にも,新制度導入に同意することを決議した八信労臨時総会において,原告らが主張するような限定を付した上で右決議が行われたとの記載は一切ないことなどに照らすと,右「意見書」の文言はその字義どおりに解すべきであり,原告らが主張するような趣旨に解することは困難であるといわざるを得ない。したがって,原告らの右主張は採用できず,八信労は,55歳時年度以降の職員に関する部分も含めた新制度全体について,その導入に同意したものと判断するのが相当である。
また,確かに,原告らは,当時8級職以上の地位にあったため,八信労への加入資格が与えられていなかったものであるが,被告は,原告ら八信労組合員以外の職員に対しても個別的に説明会を開催し,その意見を述べる機会を十分に保障し,かつ現実にある程度その意見を聴取している上に,本件就業規則等変更によって導入された新制度の内容は,ことさら原告ら八信労の非組合員に対してのみ著しい不利益を及ぼすような労働条件を定めたものではない,から,右事実のみをもって,本件就業規則等変更は労使間で十分に利益調整がされた結果として合理的なものであるとの評価を覆すことはできない。
(四) 以上によれば,新制度導入のための本件就業親則等変更は,原告らを含む55歳時年度以降の労働者に対して少なからざる不利益を与えるものであるが,そのような不利益を法的に受忍させることもやむを得ない程度の高度な必要性に基づいた合理的な内容のものであると認められるから,それに同意していない原告らに対しても,その効力を生じると解するのが相当である。
第六結論
以上によれば,原告らの本件各請求はいずれも理由がないから,これらをいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 坂本慶一 裁判官 中山幾次郎 裁判官 小林正樹)
別表1
<省略>
別表3
<省略>